連載-建築への夢

連載にあたって-井上邦雄さんのこと

現在ロスアンジェルスで設計事務所を営む建築家井上邦雄さんは、我が東京電機大学建築学科の第一期の卒業生です。
卒業後、設立間もない船越研究室と「ARCOM(船越徹先生の主宰する設計事務所)」で2年間を過ごした後、自身の夢を実現するため、単身アメリカに旅立ちました。1971年4月1日のことです。ARCOMでの模型造りのアルバイトを通じて井上さんと懇意になっていた私は、友人の野崎君らとともに羽田空港に見送りに行き、送迎デッキに「井上さん大きく翔たけ」の横断幕を掲げたものでした。
その後、イエール大学大学院を修了しいくつかの設計事務所を経て、アメリカで最も大きい設計組織であった「S.O.M」で経験を重ねた後、ロスアンジェルスで自身の設計事務所を設立するに到るのですが、それまでの様々な体験を綴ったのがこの「建築に夢を託して(I have a dream)」です。
生きる道しるべを見失いがちな、かつて無い不気味な社会不安の中で、私たちはそれぞれがいま懸命に生きています。この苦境はまだ始まったばかりで、新しい価値観を基盤とした経済の仕組みが定着するまで、混乱と忍耐の時代がしばらく続くことでしょう。このような変化に戸惑い、ともすると苦境の中で希望を失ってしまうようなこともあるかも知れませんが、価値観の全く異なる異国での孤独な戦いの末、自分を見失わず夢を形にした井上さんの体験談は、私たちに希望とヒントを与えてくれることでしょう。建築の第一線で活躍される諸兄だけでなく、これから「夢」を実現しようとする在校生諸君にも一読をお奨めする連載です。これから毎月2回のペースで約1年間掲載しますのでよろしくご愛読下さい。